4話 「死神と傭兵はかく語りき」(後編)

2019年09月16日








パンケーキもすっかりなくなり、腹も膨れた。

久しぶりの食事に、二人して「ほう...」と溜息をついてしまう。


「久しぶりに美味しいものを食べました...私もこうなる前にお料理を覚えていればよかったかな...」


だから昔、どうせなら覚えろと言っただろうに。


しかし、そもそも何かを食べたのが久しぶりだな...。

飢えていた身体に、食べ物が染みわたる感覚。

随分と久しく、空腹すら覚えなくなっていた私には、涙が出そうになるほど懐かしい感覚だった。


「ええと...それで、黎さんは死神になって...」


ええと、ええと、と指折り数えるように思い出していく彼女。

はたと、指の動きが止まった


「あれ?そういえばそのあとのロンさんの話はどうなったのです?」


ん?あぁ、ロン殿はな...


きちんとパンケーキを食べた手を拭い、綺麗になったことを確認してから、そっとアルバムのページを捲っていく。


ぱら。


ぱら。


ぱら。


―――そうそう、その時の写真が、これだな―――












「いや参った参った。我も口を割るとしようか」

ははは!と大きく笑うと、琥珀色の液体が満ちたグラスをぐいと傾ける。


ごく、ごくと。


ウィスキーにあるまじき勢いで、みるみるうちに飲み干していく。

ぷはあ、と息をつくと、ずいと私の前にグラスを突き出してきた。


「...我の口を割らせるためには、もう1,2杯、美人のお酌をだな」


にやり、と人好きのする笑みを浮かべるロン。

やれやれ、まったく良い男だと苦笑し、突き出されたグラスにまた注いでやる。


「すげ、そんなに飲めるもんなのかこれ...」


隣で、ウィスキーをちびちびとやりながら呆然とした顔で驚いている黎の声が印象に残った。


「ふぅ...いや、すまんな。話すにしても、少し酒の力でも借りんと話せそうになくてな」


すこし赤らんだ顔をしたロンが、いつもより少しだけ肩の力が抜けた様子で言った。

確かに、珍しいものを見ていると思う。

いつもは大抵、宴会になっても最後までいつも通りの顔をしている彼だが、今日ばかりはということなのだろうか。

いつもより力が抜け、自然体に近い姿になっているように思う。


「さて、何から語ったものか...」


ふむ、と思案顔をしながら、視線を彷徨わせる。


ふと、背後に視線を感じて振り返ると。

そこには、酒瓶とつまみを両手に乗せ、にんまりと猫のような笑みを湛えた雪華が立っていた。


「おやおや、お三方。今日はこっちでしんみりやっとるんやね?珍しいこともあるもんやな」


「おや、これは雪華殿。貴殿も今日はこちらで飲んでいくか?」


「さっすがロンはん、話が早くて助かるわぁ」


にこにこ、と笑う雪華。


その背後で馬鹿騒ぎをやっていたコハクとヴォルグ両名の頭にフライパンが振り下ろされるのを見なかったことにしつつ、こちらも笑いかける。


「やあ、今夜は大人組、ということでな。昔語りを肴にやっていたところだ」


「ほう!そりゃええわ!うちも混ぜてーな」


「うむ!どうせだ、雪華殿も聞いて行かれると良かろう!」


自分の隣の椅子を引きつつ、ロンが笑いかける。

案外、こういう仕草が似合う男だ。

嫌味が無い、と言えばいいのか。


「おおきに、ロンはん。紳士やんなぁ?」


「ははは!戦場以外では紳士たれ、と言われて育ったのでな!」


「ほいじゃ、お土産や。うちの故郷の大吟醸と、うちの手作りのつまみ」


「おお、これは有難い。感謝するぞ、雪華殿!」


「ほほう?極東の米酒か。これはこれは」


「おお、サケ、というやつだな。結構好きなんだ」


「そりゃええわ!どんどん飲んだってなー」


今日の雪華は随分と機嫌がいい。

大抵はにこにこと笑っている雪華だが、それでもなお。


「どうした?今日は随分とご機嫌じゃないか」


訊こうか少し迷っていたところ、黎から同じ疑問が飛んだ。


「ん?そうかえ?んまぁ、ウチはこうやってしんみり酒を飲むっちゅうのも結構好きなんやけどな。こうやって大人組が集まってるっちゅうのも珍しくて、ついウキウキしてもうてなぁ」


あぁ、確かにそうかもしれない。

まだ酒場に人が少なかったころ、雪華や黎と深夜まで「サシ」で飲み明かしたことがあった。

確かに、最近はこういった機会は少なくなっているかもしれない。

勿論、その分宴会の数が増えたので一概に悪い事ではないのだが。


「確かに、最近はこういう機会は少なかったかもな」


黎がぽつりと呟いた。


「随分前だが、恋愛相談を肴に飲んだこともあったな?ん?」


「おい、だからやめてくれって!くそ、本当にもう!」


ばたばた、と悶えるように手足をばたつかせる黎。

羞恥心の置き所がなくなったのだろう。

からかいがある、と言えばいいのか。彼はなかなか純粋な反応を返してくれるので、私としても話していて面白いところがある。


「おーおー、黎きゅんはかわええなー」


「だめだ保護者が増えた!」


「ははは!精神的に年上の女性には基本的には勝てんものだぞ、黎殿!」


「そういうところでこっそり気遣いするあたりがロンの怖さだよ...」


「こういうものは年の功、というやつだな。身を守るための処世術とも言うが」


「はー、俺もまだ勉強することが多くて参る...」


「あっはっは、学ぶ事が多いっちゅーんはいいことやな!」


あーもう参った。降参するからやめてくれ、と言わんばかりに両手を上げた黎がテーブルに突っ伏した。


皆で笑い合う。




「んでんで?昔語り言うてはったけど、誰が語ってくれるん?」


「雪華殿、と行きたいところだが...」


「そうは問屋が卸さんなぁ?」

私はにやり、と口の端を吊り上げて笑って見せる。


「そうだぞ。俺の話を聞いたんだ。次はロンの番だろ?」


「わかっておる。いや、我は話が苦手でな...とりとめない話になると思うが、それは勘弁してくれ」


ふぅ、と溜息をつき、グラスを傾ける。





暫く沈思黙考したのち、ゆっくりと口を開いた。



昔、大きな戦があった。


...そう、大きな戦だ。


不運なことに、村が一つ、その戦に巻き込まれたそうだ。


「戦いが繰り広げられておる中、その中に...怒号と悲鳴、戦場にある「音」には似つかわしくない、赤子の鳴き声が戦地に響いていたらしい」


ふむ、と雪華が頷く。


「戦災孤児...ちゅうやつかえ?」


然り、と頷くロン。


一方、黎は耳をそばだてつつも、恥ずかしそうに机に突っ伏していた。

思わず苦笑するが、こういうところが彼を子供扱いしたような仕草になるのだろうなあと思う。


「そんな戦地に響くほどの大声だ。人の眼にも付こうというもの。その赤子は...あぁ、お察しの通りそれは我なのだが。丁度その場に居合わせた、とある御仁が拾ってくれたのだ」


そこから、我の生は始まったのだな。と彼は言う。


「我を拾ってくれた御仁というのが、ヴィズル傭兵団の団長をしていた、ヴィズルという御仁でな。まぁ、傭兵団の名前がそのまんまなのだが」


「ヴィズル傭兵団...?っちゅうと、あの飛空艇を抱えた傭兵団かえ?」


「ああ、雪華殿は御存じであったか。その通り。例の傭兵団だ」


「その傭兵団なら随分前に見たことがあったなあ。あれやろ?二つ名持ちがわんさかいる、やたら強いっちゅう...」


「その通りだ。団長のヴィズルをはじめ、"双剣"のロヴァル、"大魔導士"アリンネヴィア...まぁ、傭兵の世界ではビッグネームが揃っていてな」


「うえ、傭兵団の名前はともかく、その名前は全然聞いたことないな...」

不意に顔を上げると、記憶を辿るようにして黎がぼやいた。


「黎殿はどちらかというと、連中に始末された奴らのほうが覚えがあるのではないかな」

私がそう言ってやると、「あー、どっかで聞いたことがあるから、もしかしたらそうかも」と頷いていた。物騒な話だが。

まぁ、戦場なんてのは、彼ら死神たちにとっては仕事場だからな。


「さて、そんな連中に拾われた我だが、拾われたのが生まれて数日だった」


村は戦で消滅、村人は行方知れず。

親を探すのも現実的ではなく、仕方なしにそのまま、ヴィズル傭兵団で育てられることとなったらしい。


「ほえー、そうなんか。団の雑用とかして育ったん?」


雪華の疑問に、ロンは苦笑がちに首を振った。


「いやそれがな。双剣を握りしめて、団長に敵陣のど真ん中に放りこまれてな...」


「うわぁ」

黎が非常に嫌そうな顔を浮かべた。

私でもそれは流石に御免被りたい話だ。


一方、雪華は雪華で「あっはっは!」と爆笑。けたけたと笑っている。

これだから戦闘種族は。


「そいでそいで?」


上機嫌にロンのグラスにどばどばと米酒を注ぎながら雪華が目を輝かせて訊く。


「む、かたじけない。それで...まぁ、来る日も来る日も戦に明け暮れておったな」


そのせいもあってか、祭りなどや祝い事といった、普通の家庭でやるような行事に対しての憧れが強いのだという。

酒場屈指のイベンターの、意外な起源を見た思いだった。


そう語るロンの眼は、優し気に細められていた。

それだけ、傭兵団での日々に愛着があったのだろう。

懐かしむような色が見て取れた。

「そして1年ほど前のある日、運命の出来事が起きた。」


「当時のヴィズル傭兵団は...無類の強さを誇っておった」


戦場だけではなく、貴族、王族色々な所で名が知れる様になっていたのだという。

―――その中、あるイゴッゾの貴族の方から、依頼を受けたのだ。

依頼内容は「イゴッゾとモッゴスでの戦で戦局的に、非常に大きな意味を持つ島の争奪戦で、イゴッゾ側を勝利に導いて欲しい」というもの。



――――成功報酬はいつもの5倍。



「前金もいつもよりも遥かに多く受け取ったようだった」


「んん?そりゃあええ話なんちゃうん?」

くい、と首を傾けた雪華が疑問を口にする。


「それは...アレだろ」

黎は何かを察したようだった。


「あぁ、雪華殿。大抵、こういう「常と違う事態」というのはな...」



――――そう、厄介ごとだ。



「左様。その当時、団長も破壊の待遇の割に、とても渋い顔しながら戻ってきたので、よく覚えておる...」


ロンは腕を組み、眉間に皺を寄せて瞑目した。


「厄介ごと、かえ...」


「その後、暫く団長は悩んでいたが、最終的に参戦を決定した」

―――――――――――酷い、戦いだった。

ぽつりと。

絞り出すように。

普段の声のトーンからは想像もできない声だった。


「......」


ぐったりとしていた黎が身を起こし、真剣な表情になっていた。

雪華はロンのグラスに酒を注いでいき、黙って先を促した。


「我らが現地入りした時点で、戦況はすでに混迷を窮めておってな。敵味方入り乱れての大乱戦だ。既に、自軍がどちらなのかさえ判然とせんほどの大混戦」


「そりゃあ...難儀な戦いやな...」


思わず気圧された様に雪華が口にした。


「混戦、というのは洒落にならない事態だ。それは正規軍だけでなく、投入される傭兵にとっても最悪の事態と言っていいだろうな」


私が言えば、ロンは瞑目したまま頷いた。


まるで、その地獄を思い出すように。


「我らも散り散りになり、すぐさま参戦した。...我は島の沿岸部へと派兵されたが、まぁ、酷い有様だ」


溢れかえるモッゴスの兵士。

統率がてんで取れておらず、まともな連携さえできんイゴッゾ兵。

どちらも最悪の状況だ。

極めつけは「全軍突撃」と。それしか言えない指揮官。

もはや、壊れたラジオのほうがまだ仕事をするのではないかと思う程であった。


彼は語る。

記憶の中の地獄を、舌に乗せて。


「それからも戦況は混迷を深めた。当然だ。無能が指揮を執り、誰が敵で誰が味方かも分からんような、地獄の釜で踊るかのような戦場だったのだから」


その言葉に、地獄の名所「釜茹で地獄」でも思い出したのか黎が吐きそうな顔をした。

いや、確かに全裸で茹でられているむくつけき悪人どもという絵面を思い出せばそうもなるだろうとは思うが。それとはちょっと違わないだろうか。


「我も三日三晩、休むことも眠ることもできずに刃を振り続けた」


ただただ、刃を振り続けたのだ。


やがて時間の感覚もなくなり、身体の感覚さえ希薄になっていく。

―――やがて自分がこの地獄で何を為せばよいのか。それすらわからなくなり、その場に倒れこんだ。


「戦場で倒れるのだ。当然「死」を覚悟せざるを得なかった」



踏み荒らされ、血と臓物でぬかるんだ大地。



そんな地獄のような大地に、沈み込んでいく。



やがて、自分もこの大地のように、ぬかるみの一部となって死んでゆくのだろうと。





覚悟をした、その時。


まばゆい光が辺りを包み込んだ。


「すると、不思議なことに「消えた」のだ。音、戦の気配...」

――――――その、全てが。

「...消えた?どういうことだ?」

「どういうこっちゃ?意識を失ったあと、どこかで目を覚ましでもしたんか?」


黎と雪華が不思議そうに尋ねる。

しかし、その問いに対して、ずっと瞑っていた目を開いたロンは否定の意を返した。


「否。確かに「あの世」かとも思った。忽然と何もかもが姿を消したからな」


「不思議に思い島中巡ったが、我が居た島に間違いはなかったのだ」


激しい戦いの痕。おびただしい数の遺体。


地獄のようなそれらが。


そして、あれほど大規模な戦だったというのに。

―――――――誰一人として生者がおらんかった。

「それから...随分と途方に暮れてな。帰ろうにも我らの飛空艇はすでに壊れておったし、誰かを頼ろうにも、誰もおらんかった」


「島でひとりぼっちになってもうたんか」


「うむ。生者はおろか、死者の一人もおらん。武器の一つも落ちておらん」


「つまり、何か大変な事態に巻き込まれたってことか?」


「うむ。黎殿の言う通り、何かに巻き込まれたと考えるのが自然であろう」


その後、泳いでイゴッゾまで戻ることにしたという。


「...は?泳いだ?」

嘘だろおい、と黎は呟く。


「遠泳したんかえ!?」

雪華でさえ、目を剥いて驚いていた。


「また豪快な...」

思わず、呆れたような声を出してしまったが、これは誰しもこうなるのではなかろうか。


「いや、ははは。居ても立っても居られなくなってしまってな。我ながら思い切りが良すぎた。流石に死にかけていたところを漁師に助けてもらってなければ、今頃海の藻屑であったことよ!」


わはははは、と彼は笑う。

いやおい、豪快過ぎるだろう。


いや、彼なりにこの雰囲気を少しでも明るくしようとしてくれたのだろう。


「それでな、助けられた後、勢いごんで依頼主の元へ報告へ参ったのだ。しかし...」


「...しかし?」


「依頼主がおらんのだ。屋敷はもちろん、「そんな人間がいた」という痕跡でさえ。誰も、誰も依頼主の事を知らんというのだ」


そこで一息ついたのか、グラスをぐいと傾ける。

語るに集中してしまっていたためか、随分とぬるくなってしまっていたらしく、少し苦い表情をした。


「......ほれ」


ぱちん、と指を鳴らし、魔術を行使する。

簡単な冷却魔法だ。

グラスとその内容物だけを冷やすくらいなら、魔術があまり得意でない私にも簡単にできる。

雪華が「器用やなぁ」とくすくす笑う。


「これはありがたい」


急に冷えたグラスに目を丸くしたロンだが、すぐに眦を下げると、ぐい、と一息で飲み干した。


「それから仲間を探そうと思ってな。しかし、いかんせんあの戦でイゴッゾ人が信用できなくなった我はエドルまで流れ、そしてこの酒場に流れ着き、流れの傭兵をやりながら情報収集をしている...と言う訳だ」


「なるほど、情報収集のためにあちこちの戦役に顔を出していた訳だ」


「あでりー殿、その通りだ。貴殿ももし、何か情報があれば教えてほしい」


「......ん!?あでりー、もしかしてそれって......」


何かに気づいたように、黎が私の肩に手を添えた。

察しが良いな。というか、しばらく前の事だったがよく覚えているものだ。


「そう、その通りだ黎殿」


「ん?お二人は何か知っておるのか?」


「あぁ。ロン殿が戦地に出向いていて伝えられなかったんだが。」









―――――――――――――フルーニルと会った。








「......っ!?何だと!?」

思わず、席を蹴倒して立ち上がるロン。

がっしりと私の肩を掴む力が強く、少し痛みが走った。


いや、それほどまでに必死になって探していたのだろう。

痛みが顔に出てしまっただろうか。

我に返ったロンが、慌てて肩から手を離した。


「...っ、すまん!」


「いや、構わん。それで、フルーニルの話だったな」


「是非聞かせてくれ!彼は、彼は生きていたのだな!?」


慌てて倒れた椅子を引き起こすと、真剣な表情で私に迫る。

距離が近い、距離が。


その脇で雪華がにやにやと猫のような笑みを浮かべている。


「あ、あぁ。今は何でも屋として生計を立てながら、貴殿と同じで情報を集めて回っているようだったぞ」


そう言ってやると、ふっと力が抜けたのか。

どさり、と椅子に座りなおす。


「そうか...」


...そうか。本当に良かった...。


彼は、心の底から安堵したかのように、そう呟いた。


「フルーニル、という男は、我に剣を教えてくれた師匠のような男でな...」

懐かしむように、目を細める。


「どうも、あの戦役で怪我をしたらしく、傭兵家業は続けられなかったと言っていたな」


「そうか...残念だが、生きていてくれただけでも十分だ。ああ、まったく今宵は本当に良い夜だ!よき仲間に囲まれ、仲間も一人、見つかった!」

彼は一瞬、痛ましそうな顔をしたものの、すぐに振り払い、いつもの笑みを浮かべ、そう叫んだ。


「...よかったな、ロン」

暖かい声をかける黎。


「いやあ、良かったわぁ、ロンはんのお仲間はん、見つかったんやねぇ...」

雪華は感極まったのか、ぽろぽろと涙を零していた。


本当に、どいつもこいつもお人好しなのだから。


「ああ!全く、この酒場の面々は最高だとも!」


―――――はっはっは!

呵々、と彼は笑う。いつになく、嬉しそうな顔で。


「本当にこの酒場は、愉快だ!皆の衆も良い方ばかりで居心地がよい!

今日は我の奢りだ!ここに金貨をおいていくでな、好きに飲んでいってくれ!

ほれ!何をボサっとしておる!どんどん飲んでくれ!」


ロンが立ち上がってグラスを振りかざす。

ちゃぽん、と、グラスの中の液体が踊っている。


「やっほう!ロンはんのおごりかえ!あでりーはん!あれ開けよ、あれ!」

きゃっほう!と。

先程までさめざめと泣いていたとは思えないテンションで雪華が叫ぶ。


「おい、あんな高いの開けていいのか?」


「今日は祝宴やで!ここで開けんでどうすんねん!」

泣き笑いのような表情で、雪華がボトルを勢いよく開け放った。


あーあー...。


「俺も飲みたい!」

黎は黎で、希少な酒に期待が止まらない様子だった。


わいわいと騒いでいると、別のテーブルで飲んでいた連中が口々に騒ぎ出す。


「おっ!?今日はロン兄さんの奢り!?やったぜ!俺もなんかのーもうっと」


「わたしはミルク飲みたいのです!白バラなのです!」


「わたしはご飯を!」


「ええ...ポノさんまだ食べるんですか...?」


「飲み過ぎたら私の葉っぱあげますからね~」


「あらあら、今日は宴会なのね?」


「やった。僕も何か飲んじゃおっと」


「フム。目出度い事でもあったのか。では俺も何か頂くとしようかな」


「わてはいちご牛乳!もちろん樽で頼んます!」


皆、何がなんだか良く分からないが、とにかくめでたいとばかりに盛り上がってしまい、全く容赦がない。


「いいぞいいぞ!今日は祝いだ!ケチなことは言わん!ぱーっと飲んで食ってくれ!」













「そういえば、そんなこともありましたねえ。あの時、そんなお話だったんですね?」


―――ああ。偶然、私がフルーニル殿と会っていてな。まったく、あの酒場にいると退屈せんよ。


「そういえばフルーニルさんって、そのあと酒場でロンさんと泣きながら抱き合ってたひとですよね?」


感動の再会だったなあ。一言を除いて。


「あぁ、そうそう。そうでしたね。あれはちょっと笑っちゃいましたけど」


そうそう。


確か―――――――













「うわっ、フルーニルお主、相変わらず息が臭いな!」


「感動の場面でその感想は抑えられなかったのか、ロン!?」








星の観測者 あでりー
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