5話 「救い」(中編)

2019年09月16日







「それで?言われた通りに声をかけて集まってもらったけれど、今日は何をするのかしら?」


こてん、と首を倒してエイミーナが問う。


スピカめ。詳細を話すのを忘れたな、あいつ。

順調どころか、想像を絶する速度で戦闘力は上がっているのに、こういう伝言や宅配がとことん苦手なうちの使い魔である。


ふう、と息を吐いてから口を開く。


「ちょっとした討伐戦に繰り出そうと思ってな」


「んん?討伐戦?そりゃあかまへんけど...人数、多過ぎとちゃうん?」


私の言葉に雪華が疑問を覚えたらしい。


確かに、通常の討伐戦では基本的に連携が取れるのは、大抵の場合5名が限度だ。

というのも、効率を突き詰めていくと大体その人数に落ち着いてしまうからだ。


人対人の、いわゆる戦場なら数の暴力こそ全てだが、1対多数の場合は5人という数字が最も効率的という研究結果が出て以来、冒険者やハンターの間ではこの人数を厳守することがベーシックとなっている。

構成はほとんどの場合、護術士、剣術士、聖導士、魔導士、弓術師の構成となる。


さて、現在の人数を考えてみよう。


「護術士」の雪華、「剣術士」のヴォルグ、「聖導師」のエイミーナ、「魔導士」の黎、「弓術士」の蜜柑、朔、そして占い師ながらも私は弓を扱う。


―――つまり、弓術士だけ3名もいるのだ。


非常に非効率的なパーティメンバーといえる。

故に、雪華らの疑問は当然の疑問と言えるだろう。


しかし、明かしていない情報がある。




ーーー今回、アデリーナ・ミューゼル・ブルーおよび朔は戦力外となる。




これはほぼ確定事項だ。

故にこの面々を集めた。


「くすくす。占い師さん?そろそろ本当のことを話したらいかが?」


「ん?どういう事だ?」


エイミーナが鈴を転がすように笑い、ヴォルグが反応する。


「占い師さんーーーー嘘はついていないけれど、言っていない事があるわね?」


ーーーー驚いた。

どのみち明かすつもりではあったが、それはもう少し後の予定だったのだが。


エイミーナの嗅覚を侮った、という事だろう。自省せねばなるまい。


しかし、少しだけ待ってもらいたい。


「すまん。ここでは言えん内容だ。少し、歩きながら話をさせてくれ」


ーーー開き直る、と言うわけではないが。


ここで話せない内容であることも、また確かなのだ。

忙しそうに鍋を振る店長代理の姿を視界の端で捉えながら、そう告げた。


「...ま、よかろう。あでりー嬢が俺たちをわざわざ嵌めるような真似をする必要もないだろうしな」


「そこは素直に『信じている』っちゅうところやないの?」


「あでりーちゃんの目を見ればわかるよ。さ、行こっか」


「そうね。急ぎなんでしょう?さ、朔さんも行くわよ?」


「わ、わても!?このメンバーじゃ足手まといに...」


「さてさて、朔はんも任意同行やでー」

「それは連行と言うのだ」




この連中は...まったく。

本当に助かる。









店を出て、そのまま無言で歩くことしばし。


そろそろ街を出ようか、と言うタイミングで雪華が口を開いた。


「ほいで?そろそろ話してくれへん?」


「ああ、ここまでくればもう良いだろう。端的に話をしよう。今回ーーー」


足を止め、くるりと身を翻す。

白いローブの裾が、ばさりと音を立てて揺れた。








ーーー朔の一族に呪いを施した輩の所在地を、掴んだ。



「はえ...?」


呆然とした声が、朔の口から漏れた。


「あっ、あでりーはん!?それ本当かえ!?」


雪華が、勢い込んで私の襟首を掴み、揺する。

おい、おいやめろ。酔うだろう。


「ーーー驚いた。もう何世代も昔、と言う話だったのに、良く見つけたな。いや、あでりー嬢ならそれも可能なのか?」


おいヴォルグ。見てないで助けろ。


いや、そうではない。


「今回、アタリを付けてくれたのは私ではなく、ルシファー殿だ。彼が見つけてくれた」


揺すられながらも、なんとか声を上げる。


「るしっ......え?ルシファー様が!?わざわざ!?」


ルシファーの熱烈なファンであるヴォルグが、目を白黒させて動揺する。


「私が以前手紙で話をしていたのだ。それがこの度見つかったということで...コキュートスまで呼び出されてな」


「呼び出...え?あでりー嬢、ルシファー様とお会いしてきたのか?」


「あぁ。午前中に出発したので、流石にこんな時間になってしまったが」


「あの距離を日帰りしたのか!?」


ヴォルグが驚愕にぽかんと口を開く。

まぁ、冥界の広さは尋常ではないからな。


「あー、俺も同行したんだが...あでりーの足が速くてな...」


「走ったのかえ?」


「占い師さんが走る姿は想像つかないわねえ」


「へえー、ちょっと見てみたいな」


口々に囃し立てる面々。

私が走る姿がそんなに珍しいのだろうか。


「私とて必要に駆られれば走りもするぞ」


「......いや、馬どころの速さじゃなかったんだがな......」


囃し立てるものの、それは呆然とした朔の様子に、敢えて気を使っているようにも見える。

訊いて良いのか、悪いのか。


分からないから、そうするしかないのだろう。

しばらく、黎が代わりに地獄での話を語って聞かせていた。


何故、私が地獄まで乗り込んだのか。


地獄で、何があったのかを。

話がひと段落したころ。


一人、私の方へ歩み寄ってくる。

先程まで青かったはずの瞳に、赤い炎をちらつかせて。


「あでりー嬢、聞かせてくれ」




―――――――――朔の呪いは解けるのか?


ああ。




「そうか」


一つ頷き、私から離れる。


―――であれば、俺から言うことなど何もないよ。

にい、と。牙を見せるように笑ってヴォルグは双剣を担いだ。


―――せやなあ、ならいっちょ気張らなあかんなぁ?

雪華は、にしし、と猫のように、嬉しそうに笑って盾を持ち上げた。


―――やっと朔ちゃんの呪い解けるんだね!

にぱ、と蜜柑が笑い、弓に手をかけた。


―――あらあら、さすがねえ、みんな

くすくす、と鈴を転がすような音を鳴らし、エイミーナがメイスを握る。


―――そいじゃ、俺もちょっと頑張るかな

少し恰好を付けたことに頬を染めながら、黎が鎌をくるり、と回した。


全く、察しがいいというか、なんというか。

これからどんな悪魔が出て来るかも訊かんとは。

参るね、まったく。


ちょいちょい、と腕をつつかれた。

完全に話からおいていかれていたのは、当の本人。


朔だった。


「あ、あの、あでりーはん...?」


不安げに揺れる瞳が、私を見ていた。

不意に思い出す。



酒場でいきなりいちご牛乳を薦められたあの日を。


占ってほしいと頼まれた、あの夜を。


未来などないのだと、自嘲して笑っていたあの晩を。


死ぬのが怖い、と震え、睫を濡らしていた、今日の事を。







―――ああ、わかっているとも。

こういうのは、柄じゃない。



それに、私が干渉するというのは、本来望ましくない。

だけれど。



仲間を救えると聞いて。


お膳立てまでしてもらって。


これだけ、気の良い連中が、やる気を出している。


ならば、私もたまには、柄でもないことをしてみよう。








「――――――いいか。朔を、救うぞ」


「応」と。


5つの音色が響いた。





当の本人が混乱している中で悪いが。

お前は黙って――――――私たちに助けられていろ。








それでは始めよう。

―――――我々の、未来を奪い返すための、戦いを。

星の観測者 あでりー
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